さらばカリスマ セブン&アイ「鈴木」王国の終焉
まずこの対立劇を見ていて思ったのはベンチャー的な考え方をする鈴木氏と、雇われ経営者の考え方をする伊藤氏ということ。
鈴木氏から出る伊藤氏非難の言葉は、新しいものを作りださなかったこと。一方の伊藤氏の言い分は、それでも数字は伴っているということ。
どちらを支持するかはそれぞれの育ってきた背景だったり、立ち位置に左右されるでしょうが、実家が自営業を営んでいる私としては鈴木氏側を支持したい。
実際本書を読んでいると伊藤氏の言葉からはセブン・アイグループの将来像が見えてきません。
消費者のニーズに沿ったという言葉が度々出てきますが、それは大前提でありますし、抽象論すぎます。
いきなりの鈴木氏の退任となってしまった為、まだ考えがまとまっていないと考えることも出来ますが、そもそも鈴木氏が望んでいたのも、そうした先々を見据えた上での目新しいサービスだったはず。
それが出てこなかったということは先を見据える力が物足りないということ。
伊藤氏がやってきたことは悪く言えば小手先の改良にすぎないのですね。
もちろんそれでも成果はあったでしょうけど、鈴木氏の後釜として考えた場合には私でさえ物足りなさが残ります。
本書を読むとどうやらこの対立劇には様々な政治要素が働いていたようです。
その中でもとりわけ私の眼に不快に映ったのが外資ファンドのサード・ポイントと氏名報酬委員会における社外取締役の伊藤氏の存在。
前者はいわゆる物言う株主ですが、こうした海外ファンドは基本的に短期的な利益にのみ視点をやります。
そのため一貫してそごう、イトーヨーカドー、バーニーズジャパン、ニッセンのグループからの分離を迫ります。
しかし、地方民の私としてはイトーヨーカドーは非常に重宝する店であり、安易に切り捨てて欲しいと思いません。
アパレル関係の不振が問題点ですが、食料品のウェイトが高まってきており、上から下まで飲食部門にするような発想だってありますし、見限るには早すぎます。
ニッセイもオムニ7との相乗効果を活かすためであって、工夫の余地があるはず。
本書に掲載されたインタビューの質問にもありましたが、経営方針が気にいらないのであれば投資を止めれば良いのです。
外国のセブンイレブンを非上場にしているのも余計な口を挟まれないための納得の措置というものです。
社外取締役の伊藤氏については論外も論外。
偉そうなことを言っていますが、ただの大学教授にすぎません。
それも実業に関係ないガバナンスの専門家。
公明正大さを重視すればするほど、結果的に突飛な発想はできなくなります。
例えば最初にこうしたガバナンスありきであれば、ベンチャーの大半は結果を伴っていない経営者との評価を受け、ほとんど新規事業を開始できなくなってしまうでしょう。
ワンマンで経営が成り立っている会社も同様ですね。
数字という根拠がないと指摘しますが、それでは結果が出てからしか舵きりができないことになり、対応が後手に回ることが出てきてしまいます。
鈴木氏には実績があって、その人間が人事に問題があると言っているのだから変更する理由は十分にあると思います。
正直この対立劇を読むと今後セブン・アイグループの業績が悪化して、責任をとれと言ってやりたくなりますね。
少なくとも私はこの件を見て、ガバナンスの必要性は全く感じなくなりました。
儲からないガバナンスの利いた企業よりも、ガバナンスなんて無くても利益を上げてくれる企業。
投資家でもそう考える人は少なくないのではないでしょうか?
現時点ではこの対立劇についての成否は明らかではありません。
それについては時が明らかにしてくれるはずです。
しかし、鈴木氏の経営者からの退任はセブン・アイグループにとって大きな痛手となるでしょう。
少なくとも井坂氏では銀行業の参入や、流通システムの変更などには着手できないと思います。
当面は現行の制度に下支えされて好調な業績を残すでしょうが、何も新たなサービスを生みださなくなればじわじわと競合他社に差をつめられ、業界トップの地位がゆらいでいく。
そのような将来像が頭にちらちらと浮かびます。
本書もその時になって再読することで問題の本質がどこにあったのか指し示すことになるはずです。
今後のセブンの動向を見守りたいと思います。