1つ3000円のガトーショコラが飛ぶように売れるわけ
東京でガトーショコラ専門店を営むケンズカフェ東京のオーナー氏家健治氏の著書。
ビジネスはやってみなければ分からないものだし、同じことをやっても必ずしも同じ結末を迎えるとは限らない。
正直本書に書かれている内容は結果論で、結果から理論を構成しているという印象が否めませんでした。
ビジネスとすれば正しかったのだと思います。
ガトーショコラ専門店として営業できるようになったのだし、実際量・価格も当初から4倍の値上げに成功しています。今なお営業できているところをみても一過性のブームに終わらない確かなポジションを確立したのでしょう。
しかし、それまでのファンでいた常連客の行き場のない思いがこみ上げてくるのです。
3000円になっても新しい客層がついてくる。これは事実。
より高品質なものを求める層の舌をうならせることもできるようになった。
でも最初に美味しいと思ってくれた客は不必要な客だと、いなくて良い客だと切り捨てられる存在であるべきなのだろうか。
なんというか、それまで100円で買っていた食パンが、ある日突然高級食パンになってしまったような感覚に近いと思うのです。
普段使いの食パンも、たまに食べる高級食パンもそれぞれニーズがあって両方あって欲しいのに、普段使いしていたパンが高級食パンになって、前者を求めていた人は切り捨てられる。
もちろんそもそもおいしくて高級食パン並みのクオリティだったという主張もあるでしょうが、値上げとともにパッケージや、使う材料の変更もしていますし、カフェレストランからガトーショコラ専門店に業態変更という事情もあるため、それらが以前のままであるならここまでの値上げをせずに済んだだろうし、以前の常連客も切り捨てずに済んだのではないかと。
成功体験のように謳うことが、好きになれないということなんでしょうね。
1つの成功例とすれば参考にできるのですけど、個人的には好きになれない話でした。
つなぐビール
盛岡市にあるベアレン醸造所の創業記。
ベアレンとはドイツ語で熊を意味するそうです。
私はビールはおろか酒も基本的に飲みませんが、この書籍は面白かったですね。
地ビールブームの終わりごろの創業に始まり、そこから死亡事故を乗り越えて、ファンを増やし続ける。
他の企業のようなギリギリの綱渡りという場面は少ないものの、成長を是とするのではなく、あくまで地元岩手に根差した企業を目指すところが海外のブルナリーに似ていて、好感が持てます。
地ビールと言えば、価格が高いという印象があるでしょう。
しかし、ベアレン醸造所ではイベントでは入場料だけとってあとはビール飲み放題といった良心的な企画もしていたりとファンの心理も理解しています。
定期販売ではテーマを決めて色々なビールを送っているので、同じ銘柄を飲み続けるのではなく、色々なビールを飲みたい人にとってはコスパも良くて、至れり尽くせり。
作り手のイヴォの気まぐれで味が変わるのも、手作り感があって良かったです。
全国画一のビールを好きになりたいとは思いませんが、ビールと一口にいってもいろいろな種類があること、そしてそれを作り、提供する企業があることを知れて、こういう企業があるなら私もアルコール飲料にも興味を持ちたいなと感じました。
ビール好きでない私でもそうなのだからビール好きならなおさらそのように感じるはず。
ビールは好きだけど、クラフトビールは試したことないな…なんて人にはお勧めの一冊です。
パナソニックV字回復の真実
といっても著者が入社してから退職するまでの人生についても触れられているので、著者の回想録という意味合いのが強いです。
この手の社員本としては過去に武田薬品の「大丈夫か武田薬品」を読んでいて、社員の立場からでは全体どころか、自分が関与しない部門は全然理解できないことを知っているのですが、立石泰則著でパナソニックについて書かれた「パナソニック・ショック」でも山下時代の研究開発を引き継がなかったことが競争力の低下につながったことが指摘されているので、整合性はありそうです。
ただ、著者は歴代社長においてもそこまで否定しておらず、時代時代でやらなければならないことをそれぞれがやってきただけとフォローをしています。
実際、著者は歴代社長でも松下正治時代については否定的なトーンで語っています。
松下幸之助の義理の息子で、なまじ能力が伴わないのに、自分の力を過信してパナソニックを率いたことが結果的にパナソニックの力をそいでしまったことは間違いないでしょう。
同族経営には必ずしも否定的な立場ではない私も、これには同意してしまいます。
タイトルがさも業績回復に裏事情があるかのような付け方なので内容とに相違があるのですが、社員が中にいて感じたこととして興味深い一冊でした。
本書一冊ではなく、他書籍と合わせ読みすることでパナソニックの実像が見えてくるので、併せて何冊か読むのがお勧めです。
僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。
ただ、その代わり㈱ユーグレナがいかにして創業し、ビジネスとしての道筋を辿って行ったかが理解できました。
そもそもユーグレナがバングラディッシュの貧困層の栄養問題を解決するために実用化されたものだとは知りませんでした。
その特性から著者はミドリムシをドラゴンボールの仙豆に例えており、なるほどなと。
豊富な栄養成分からは完全栄養食という立ち位置と考えることができますね。
バングラディシュは食べるものはあるけど、炭水化物ばかりで栄養分が偏っている。
だからバランスの良い食事が必要で、それには動物であり、植物であり、プールのような施設と日光さえあればどこでも培養できるミドリムシが最適。理にかなってます。
もっともバングラディシュの培養施設というのはイメージが浮かばなかったのですが。
そんなミドリムシも研究が進めばより高カロリーのミドリムシを生み出せて仙豆っぽくもできるようになるかもしれません。
そしてミドリムシにはバイオ燃料としての可能性も。
もっとも本書が刊行されたのが2012年で、2024年の現在もバイオ燃料「サステナ」をジェット燃料に100%使用どころか、10%しか使えていないのですから、ちょっと現実的ではないのかもしれません。
ただ、世の中の動きがサステナブルに変わってきているので、そこは追い風と言えます。
ミドリムシの実用化自体が無謀に近かったのですから、そこは泥臭く挑戦し続けて実用化にたどり着くことを期待しています。
ストーリーで理解する日本一わかりやすいMaaS&CASE

これは非常に分かりやすい本でした。
MaaSとは何か?CASEとは何か?の基本的な解説が初めに少しあって、その後は2020年刊行時における主にMaaSに取り組む日本企業の例がひたすら提示されています。
この手の書籍だと最初の説明が長すぎてうんざりしたり、また提示される例が馴染みのない海外企業ばかりで理解の妨げになることが少なくありませんが、本書は取り上げる企業が日本企業に限定されているため、理解しやすかったです。
どの企業も革新的な取り組みをしているだけにTV番組や、雑誌で一度は見聞きしたことがあって、この企業だったのかと思うこともしばしばありました。
本書に掲載されている企業数をみるとMaaSの実現もそう遠いことではないかのように思えてしまいます。しかし、私には読めば読むほど日本においてMaaSを導入することが難しいように感じました。
そもそもMaaSが最初に成立したフィンランドは交通を担うのが単一の公共組織であったことが大きいです。それであれば調整が不要で、単に便利な仕組みを作るだけで成立します。
しかし、日本においてはそれぞれの交通サービスごとに事業主体が異なります。公共団体ならまだしも民間企業でこれらが肩を並べるのは至難の業。げんにウーバーの章では、タクシー会社がウーバー潰しと思われる行動をとっていて、シームレスな移動など実現不可能なのではないかと思わされます。
ただ、ここで勘違いしたくないのは消費者視点では妨害活動を行うタクシー業界も、自分達の生き残りのために必死であること。競争を是とする米国式の資本主義を取り入れている以上、タクシー業界が自社の存続を脅かすシェアリングサービスなどに攻撃をしかけるのはおかしいことではないのです。自分達の利益を最大化したいから企業や業界は競争しあうべきと普段いっていて、こうしたワンストップのサービスの実現の話になると競争を悪とするというのはダブルスタンダードでしかありません。これは自分達がまいた種と言えます。そのことを理解せずに既存産業を非難することはできないでしょう。
私としては日本でMaaSを成立させようとしたら鉄道会社がタクシー会社を買収するしかないと思っています。そうなれば事業主体が統一されることになるので、あとは一社の判断のみで、アプリが完成します。そうでもしなければとても日本の多用な交通主体をまとめあげることはできないでしょう。仮に鉄道会社とタクシー会社が統合されても、今度はエリアごとで交通事業者の縄張り争いが始まりますし、MaaSは地域限定など特定の条件下でないと難しいのではないでしょうか?本書で掲載されている企業をみても社会的課題として交通革命に取り組む企業が多く、便利だからという視点よりも、それを導入せざるをえないエリアからMaaSにせよ、CASEにせよ、導入されていくのではないでしょうか?どちらにせよ、一口にMaaS、CASEといっても、日本に適合した形にしないと容易に普及はしないと思われます。
ページ数が多かったものの、取り上げられている企業数も多く、日本におけるMaaS&CASEを知るには最適な一冊でした。手元に一冊置いて、今後日本のモビリティ革命がどのように動くかの出発地点とするのが良いでしょう。
願わくば世界の競合に打ち勝って、本書に掲載された企業の中から世界企業へと羽ばたく存在がありますように。
レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのか

「翼を授ける」のキャッチフレーズでお馴染みレッドブルの企業本。
私はレッドブルを一度しか飲んだことがありません。エナジードリンクはどうしても無理をして働くときの飲み物としてのイメージが強く、価格も安いわけではないので、普段飲む飲料としての選択肢に入らなかったのです。ただ、人気があることも理解していて、あるときから普及しだしたこの商品がいかにして普及してきたのか知りたくて本書を手にとりました。
そもそもレッドブルがオーストリアの企業だったことから初耳。てっきり米国の飲料だと思っていました。レッドブルの普及後に登場した競合製品の「モンスター」の方が米国発祥で、同じくエナジー飲料として棚に並ぶZONEがサントリーの商品であることを今更ながら知れたのは本書を読んだ影響と言えるでしょう(それまで意識してどこのメーカーなのか見ていなかった)。
本書は洋書の翻訳。そのため、聞き慣れない地名や人名が頻出し、なかなか読み進めにくい部分がありました。一方で、よくこれだけ調べ上げたなというほどレッドブルひいては創業者のマテシッツについて緻密に調べ上げられており、マテシッツが自身のことを調べ上げられるのを嫌っていることもあって、著者は最終的に出入り禁止などの憂き目にあったようです。ただ、本書が間違いだらけなら一笑に付されて終わりでしょうし、「大惨事」とまで言われているので、かなり正確な内容だったのでしょう。
レッドブルの経営哲学は全てがマーケティングであること。これに尽きます。メーカーのほとんど全てが看板となる製品を作り出して、それを広めることで成長したのに対し、レッドブルはあくまでタイの飲料をライセンス契約して製造を他社に委託し、マーケティングによってこれだけの企業に成長したことはマーケティングの無限の可能性を感じさせてくれます。しかし、成功が約束されたものでもなく、本書中に登場するレッドブルの事業でもほとんどの事業はレッドブルほどの成功には至りませんでした。レッドブルの成功から学べるものもありますが、再現性があるものではないと言えそうです。
スポーツに関心が低いのでスポーツビジネスについて知らなかったのですが、本書を読むとスポーツビジネスの影響力の大きさにも驚かされました。日本でもそれ相応の効果はあるとは思うものの、海外での熱狂や、広告効果はけた違いで、それをうまく利用したからこそ、レッドブルもこれだけのブランドに成長したと言えます。もっとも本書中で一番退屈したのもこの部分なので、やはり私とスポーツビジネスは相性が悪いと言えるのですが(笑)
創業者がメディア嫌いということもあり、類似書籍のない貴重な1冊となっています。製品自体の美味しさでなく、ストーリーによってブランドを構築し、成長を遂げた企業のあり方を知る上でも役立つ1冊でしょう。
クックパッド社員の名刺の秘密

クックパッドを題材に刊行されたビジネス書としては2番目に出版されたものとなります。
本書のタイトルにもなっている名刺にレシピを載せるという試みは面白い。クックパッドの名刺だと一目で分かりますし、興味を持った人には作ってもらえて、まさに料理ファーストの思考。遊び心とも言えますし、認知度を高める意味でも盲点を突いた有用なアイディアだと思います。基本的に泥臭く、料理を楽しむ工夫を広めていくのがクックパッドのあり方で、プラットフォーマーではありますが、画期的なビジネスモデルがあるわけでも、生き馬の目を抜くような工夫があるわけでもなく、終始そうした点が強みとして語られていました。
ただ、名刺以外は本書ならではという部分が少なかったというのが率直なところ。最初に刊行された上坂徹著「600万人の女性に支持されるクックパッドというビジネス」からも引用がされてるくらいで、クックパッドの良さを知りたいならそちらを読んだ方が良いように思われます。
加えて本書はページ数が非常に短い。本文そのものは100ページほどで、それ以降は名刺が掲載されているのみ。ページ数と価格のバランス的に損している感は否めません。
差別化要因としては名刺がカラーレシピ集代わりになっていること。クックパッドの解説ビジネス本としては評価低めになりますが、料理を楽しむというクックパッドのコンセプトの普及という意味では理解できる作りではあります。お家騒動で分裂することになる社長と会長について語られていることも、今読む意味と言えるでしょうか。
エピロードとして著書がレシピを見ながら料理を作って失敗した話が笑い話になっていますが、これがクックパッドのウィークポイントでもあったように思います。失敗も料理を楽しむ一要素に含まれると著者は感じたようですが、クックパッドのメイン層である主婦は、簡単に、失敗無く料理を作りたいわけです。レシピを見て作って失敗したでは駄目なんです。その後世間の流れがレシピサイトから料理動画サイトに追い抜かれていったのもこうしたレシピを参考にしても思うように作れないというのが大きかったように思います。
すでにクックパッドは凋落してしまいましたが、在りし日のクックパッドの凄さを知るためになら読む価値があると言えるかもしれません。ただし、その場合でも読む順番が本書が最初にならないのであれば読む価値は低いと言わざるをえない一冊でした。