ビジネス書読もうぜ!

ビジネス書読もうぜ!

ビジネス書とりわけ企業本と呼ばれる本中心の感想。歴史に埋もれていった本を発見する手掛かりになればこれ幸い。

続・こうして店は潰れた 地域土着スーパー「やまと」の挫折と教訓

 

正確には続編ではなく、増訂・改訂版。続というタイトルから誤解した人も少なくないはず。中身を見ればわかるのですが、ネットで買ってがっかりした人もいるでしょう。元々前著が刊行していた出版社の商業界が倒産してしまい、出版社を変えて改めて刊行されたものなので仕方ないのですが、誤解を招くタイトルはやめて欲しかったというのが正直なところですね。

 

本文の大半が同じ内容な以上、前著の感想で言いたいことはおおむね言ってしまいました。ただ、数年の経過で私自身の価値観も変化しており、以前とはまた違った感想が生まれてきました。
実際の店を見てきた山梨県民としては、スーパーやまとが潰れるのは無理もないという気持ちがあります。やまとが好きという高齢者もいたでしょうが、ビジネスとしてみれば小林社長の本業以外に力を入れ、利益をとらないあり方は宜しくなかったと言わざるを得ません。しかし、昭和の時代と違ってビジネスだからと割り切って冷酷無比な経営が出来なければならないことを擁護するほど私はビジネス至上主義にも染まっていません。

 

 

本文中でも社会貢献に魅力を感じる記述がたびたび登場しますが、小林社長は経営者として生きるより、非営利の組織代表として生きるほうが向いていたように思います。

小林社長も若いうちは、取引先を変更したりとビジネスライクな取り組みをしていますが、後年はその贖罪へと行動理念が変化しています。恵まれた人が辿る一つの価値観の変化と言えるでしょう。私自身も比較的恵まれた生活をしてきたので、実利を対価に冷酷になるより、誰かに感謝されることの方に価値を感じるようになりました。共産主義だったり、博愛主義者は所得水準が低い人より高収入の人が多いわけですが、それに近いかもしれません。ノブレス・オブ・リージュというか。裕福なぼっちゃんだった小林社長が、企業を成長し続けることに魅力を感じず、社会貢献に意識が向いたのは必然と言えるでしょう。

 

 

すでに倒産してしまった身ですので、どうせならもっと暴露もして欲しかったところですが、営業妨害だったり、名誉棄損になるので難しいのでしょうね。少なくとも山梨県民は、県外資本に押されてやまと周辺に店を出したスーパーがオギノであることも、郊外に進出してきたショッピングモールがイオンで、その系列のドラッグストアがウェルシアであることもわかるのですが。倒産の決定的要因となった問屋がどこだったのかそれが分からないので知りたかったです。その問屋も最終的にハシゴを外されて倒産するハメになったようですが。

 

 

倒産したスーパーから教訓を得る実用性という意味では本書はあまり役に立たないかと思います。ただ、倒産した社長がどういう気持ちだったのか、そしてどうなるのかという実情を、エッセイ感覚で読むには良い著作だと思います。スーパーやまとが無くとも山梨県は回っていますが、やまとを知っている世代として、本書を大切に手元に残しておこうと思います。