ビジネス書読もうぜ!

ビジネス書読もうぜ!

ビジネス書とりわけ企業本と呼ばれる本中心の感想。歴史に埋もれていった本を発見する手掛かりになればこれ幸い。

ストーリーで理解する日本一わかりやすいMaaS&CASE

 

これは非常に分かりやすい本でした。

MaaSとは何か?CASEとは何か?の基本的な解説が初めに少しあって、その後は2020年刊行時における主にMaaSに取り組む日本企業の例がひたすら提示されています。

 

 

この手の書籍だと最初の説明が長すぎてうんざりしたり、また提示される例が馴染みのない海外企業ばかりで理解の妨げになることが少なくありませんが、本書は取り上げる企業が日本企業に限定されているため、理解しやすかったです。

どの企業も革新的な取り組みをしているだけにTV番組や、雑誌で一度は見聞きしたことがあって、この企業だったのかと思うこともしばしばありました。

 

 

本書に掲載されている企業数をみるとMaaSの実現もそう遠いことではないかのように思えてしまいます。しかし、私には読めば読むほど日本においてMaaSを導入することが難しいように感じました。

そもそもMaaSが最初に成立したフィンランドは交通を担うのが単一の公共組織であったことが大きいです。それであれば調整が不要で、単に便利な仕組みを作るだけで成立します。

しかし、日本においてはそれぞれの交通サービスごとに事業主体が異なります。公共団体ならまだしも民間企業でこれらが肩を並べるのは至難の業。げんにウーバーの章では、タクシー会社がウーバー潰しと思われる行動をとっていて、シームレスな移動など実現不可能なのではないかと思わされます。

 

 

ただ、ここで勘違いしたくないのは消費者視点では妨害活動を行うタクシー業界も、自分達の生き残りのために必死であること。競争を是とする米国式の資本主義を取り入れている以上、タクシー業界が自社の存続を脅かすシェアリングサービスなどに攻撃をしかけるのはおかしいことではないのです。自分達の利益を最大化したいから企業や業界は競争しあうべきと普段いっていて、こうしたワンストップのサービスの実現の話になると競争を悪とするというのはダブルスタンダードでしかありません。これは自分達がまいた種と言えます。そのことを理解せずに既存産業を非難することはできないでしょう。

 

 

私としては日本でMaaSを成立させようとしたら鉄道会社がタクシー会社を買収するしかないと思っています。そうなれば事業主体が統一されることになるので、あとは一社の判断のみで、アプリが完成します。そうでもしなければとても日本の多用な交通主体をまとめあげることはできないでしょう。仮に鉄道会社とタクシー会社が統合されても、今度はエリアごとで交通事業者の縄張り争いが始まりますし、MaaSは地域限定など特定の条件下でないと難しいのではないでしょうか?本書で掲載されている企業をみても社会的課題として交通革命に取り組む企業が多く、便利だからという視点よりも、それを導入せざるをえないエリアからMaaSにせよ、CASEにせよ、導入されていくのではないでしょうか?どちらにせよ、一口にMaaS、CASEといっても、日本に適合した形にしないと容易に普及はしないと思われます。

 

 

 

ページ数が多かったものの、取り上げられている企業数も多く、日本におけるMaaS&CASEを知るには最適な一冊でした。手元に一冊置いて、今後日本のモビリティ革命がどのように動くかの出発地点とするのが良いでしょう。

願わくば世界の競合に打ち勝って、本書に掲載された企業の中から世界企業へと羽ばたく存在がありますように。

レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのか

 

「翼を授ける」のキャッチフレーズでお馴染みレッドブルの企業本。
私はレッドブルを一度しか飲んだことがありません。エナジードリンクはどうしても無理をして働くときの飲み物としてのイメージが強く、価格も安いわけではないので、普段飲む飲料としての選択肢に入らなかったのです。ただ、人気があることも理解していて、あるときから普及しだしたこの商品がいかにして普及してきたのか知りたくて本書を手にとりました。

 

 

そもそもレッドブルオーストリアの企業だったことから初耳。てっきり米国の飲料だと思っていました。レッドブルの普及後に登場した競合製品の「モンスター」の方が米国発祥で、同じくエナジー飲料として棚に並ぶZONEがサントリーの商品であることを今更ながら知れたのは本書を読んだ影響と言えるでしょう(それまで意識してどこのメーカーなのか見ていなかった)。

 

 

本書は洋書の翻訳。そのため、聞き慣れない地名や人名が頻出し、なかなか読み進めにくい部分がありました。一方で、よくこれだけ調べ上げたなというほどレッドブルひいては創業者のマテシッツについて緻密に調べ上げられており、マテシッツが自身のことを調べ上げられるのを嫌っていることもあって、著者は最終的に出入り禁止などの憂き目にあったようです。ただ、本書が間違いだらけなら一笑に付されて終わりでしょうし、「大惨事」とまで言われているので、かなり正確な内容だったのでしょう。

 

 

レッドブルの経営哲学は全てがマーケティングであること。これに尽きます。メーカーのほとんど全てが看板となる製品を作り出して、それを広めることで成長したのに対し、レッドブルはあくまでタイの飲料をライセンス契約して製造を他社に委託し、マーケティングによってこれだけの企業に成長したことはマーケティングの無限の可能性を感じさせてくれます。しかし、成功が約束されたものでもなく、本書中に登場するレッドブルの事業でもほとんどの事業はレッドブルほどの成功には至りませんでした。レッドブルの成功から学べるものもありますが、再現性があるものではないと言えそうです。

 

 

スポーツに関心が低いのでスポーツビジネスについて知らなかったのですが、本書を読むとスポーツビジネスの影響力の大きさにも驚かされました。日本でもそれ相応の効果はあるとは思うものの、海外での熱狂や、広告効果はけた違いで、それをうまく利用したからこそ、レッドブルもこれだけのブランドに成長したと言えます。もっとも本書中で一番退屈したのもこの部分なので、やはり私とスポーツビジネスは相性が悪いと言えるのですが(笑)

 

 

創業者がメディア嫌いということもあり、類似書籍のない貴重な1冊となっています。製品自体の美味しさでなく、ストーリーによってブランドを構築し、成長を遂げた企業のあり方を知る上でも役立つ1冊でしょう。

クックパッド社員の名刺の秘密

 

クックパッドを題材に刊行されたビジネス書としては2番目に出版されたものとなります。

本書のタイトルにもなっている名刺にレシピを載せるという試みは面白い。クックパッドの名刺だと一目で分かりますし、興味を持った人には作ってもらえて、まさに料理ファーストの思考。遊び心とも言えますし、認知度を高める意味でも盲点を突いた有用なアイディアだと思います。基本的に泥臭く、料理を楽しむ工夫を広めていくのがクックパッドのあり方で、プラットフォーマーではありますが、画期的なビジネスモデルがあるわけでも、生き馬の目を抜くような工夫があるわけでもなく、終始そうした点が強みとして語られていました。

 

 

ただ、名刺以外は本書ならではという部分が少なかったというのが率直なところ。最初に刊行された上坂徹著「600万人の女性に支持されるクックパッドというビジネス」からも引用がされてるくらいで、クックパッドの良さを知りたいならそちらを読んだ方が良いように思われます。

加えて本書はページ数が非常に短い。本文そのものは100ページほどで、それ以降は名刺が掲載されているのみ。ページ数と価格のバランス的に損している感は否めません。

 

 

差別化要因としては名刺がカラーレシピ集代わりになっていること。クックパッドの解説ビジネス本としては評価低めになりますが、料理を楽しむというクックパッドのコンセプトの普及という意味では理解できる作りではあります。お家騒動で分裂することになる社長と会長について語られていることも、今読む意味と言えるでしょうか。

 

 

エピロードとして著書がレシピを見ながら料理を作って失敗した話が笑い話になっていますが、これがクックパッドのウィークポイントでもあったように思います。失敗も料理を楽しむ一要素に含まれると著者は感じたようですが、クックパッドのメイン層である主婦は、簡単に、失敗無く料理を作りたいわけです。レシピを見て作って失敗したでは駄目なんです。その後世間の流れがレシピサイトから料理動画サイトに追い抜かれていったのもこうしたレシピを参考にしても思うように作れないというのが大きかったように思います。

 

 

すでにクックパッドは凋落してしまいましたが、在りし日のクックパッドの凄さを知るためになら読む価値があると言えるかもしれません。ただし、その場合でも読む順番が本書が最初にならないのであれば読む価値は低いと言わざるをえない一冊でした。

シャトレーゼは、なぜ「おいしくて安い」のか

 

地元山梨県の企業シャトレーゼの本。

正直昔からシャトレーゼが身近にあった身としては、安かろう悪かろうの代名詞のような企業で、現在全国展開しているのが不思議でなりません。本書によると、かつては他店が500円ほどでケーキを販売している中、シャトレーゼでは270円で販売していたらしいのですが、昨今では個人経営店と変わらない400円台が多く、価格によるアドバンテージはないように思います。世間的な評価が高くなっていたので、最近は美味しいらしいと家族を説き伏せて試しに買ってみましたし、婚活でシャトレーゼのケーキが食べられるイベントにも参加しましたが、やっぱり味も美味しくないなというのが私自身の結論。なので、基本的に好意的な印象がない状態で読むことになりました。

(あと当然シャトレーゼに勤務している人間も周囲にいるので労働環境への評判なども含めて低評価です。)

 

 

現在では高い利益率と、臨機応変に状況に対応できる点で評価の高い製造小売。これに早い段階で辿りついた慧眼には驚きます。大手ができないことをやるランチェスター戦略による10円シュークリームの販売に、直販による34%ディスカウントの低価格販売。時代を先取りしたような戦略です。さらに低価格で販売できるということは、付加価値のある商品についてもそうでない商品並みの価格で売れるということ。アレルギー対応商品や、低糖質メニューが通常価格で買えるというのも健康商品を販売する店として強みになります。

 

 

上述したように私は味について美味しいと思っていないので、味へのこだわりをいくら語られても実感が湧かないのですが、食品製造業のあり方という点は高く評価できます。添加物を使用しない試みは、食品業界のあり方に一石を投じるだけの価値があります。白州の水へのこだわりや、鶏卵の使用も(おそらく中村農場と思われる)、地元山梨の経済を盛り上げる上で非常に貢献してくれているでしょう。

 

 

また、海外展開に関しても他企業と異なる独自の経営路線を歩んでいます。日本企業の海外展開というと、高くなるのは仕方ないからその分高クオリティのものを販売するという形になりますが、シャトレーゼはあくまで安値にこだわる。これまで日本企業は前者の路線をとっていたものの、最終的に低価格路線で攻める地元企業に市場シェアを奪われ、最終的にニッチなシェアも失った例が少なくありません。その点シャトレーゼの早い段階から安値を目指し、その価格で高クオリティの商品づくりを目指す戦略は海外展開するうえで理にかなっているように感じました。

 

 

個人的に気になったのは広告宣伝費を使わないというくだり。商品紹介のチラシは出していた旨担当者からの解説もあるんですが、チラシは宣伝広告費にあたるものではないのでしょうか?てっきりそうしたチラシも出さず、ひたすら良いものを作れば売れるとの姿勢だと持ったので、なんかイメージと違うなという気が。

 

 

 

味の面では、素直に本書の記述を受け取ることができません。しかし、企業戦略としてはシャトレーゼの戦略はこのうえなく魅力的に思えました。商品が好きな人はその背景が知れてより忠誠心の強いロイヤル・カスタマーになってくれるだろうし、経営戦略に関心がある人にも製菓小売りチェーンとしてどうしてここまで大きくなれたか知ることができる。非常に有意義な1冊でした。

続・こうして店は潰れた 地域土着スーパー「やまと」の挫折と教訓

 

正確には続編ではなく、増訂・改訂版。続というタイトルから誤解した人も少なくないはず。中身を見ればわかるのですが、ネットで買ってがっかりした人もいるでしょう。元々前著が刊行していた出版社の商業界が倒産してしまい、出版社を変えて改めて刊行されたものなので仕方ないのですが、誤解を招くタイトルはやめて欲しかったというのが正直なところですね。

 

本文の大半が同じ内容な以上、前著の感想で言いたいことはおおむね言ってしまいました。ただ、数年の経過で私自身の価値観も変化しており、以前とはまた違った感想が生まれてきました。
実際の店を見てきた山梨県民としては、スーパーやまとが潰れるのは無理もないという気持ちがあります。やまとが好きという高齢者もいたでしょうが、ビジネスとしてみれば小林社長の本業以外に力を入れ、利益をとらないあり方は宜しくなかったと言わざるを得ません。しかし、昭和の時代と違ってビジネスだからと割り切って冷酷無比な経営が出来なければならないことを擁護するほど私はビジネス至上主義にも染まっていません。

 

 

本文中でも社会貢献に魅力を感じる記述がたびたび登場しますが、小林社長は経営者として生きるより、非営利の組織代表として生きるほうが向いていたように思います。

小林社長も若いうちは、取引先を変更したりとビジネスライクな取り組みをしていますが、後年はその贖罪へと行動理念が変化しています。恵まれた人が辿る一つの価値観の変化と言えるでしょう。私自身も比較的恵まれた生活をしてきたので、実利を対価に冷酷になるより、誰かに感謝されることの方に価値を感じるようになりました。共産主義だったり、博愛主義者は所得水準が低い人より高収入の人が多いわけですが、それに近いかもしれません。ノブレス・オブ・リージュというか。裕福なぼっちゃんだった小林社長が、企業を成長し続けることに魅力を感じず、社会貢献に意識が向いたのは必然と言えるでしょう。

 

 

すでに倒産してしまった身ですので、どうせならもっと暴露もして欲しかったところですが、営業妨害だったり、名誉棄損になるので難しいのでしょうね。少なくとも山梨県民は、県外資本に押されてやまと周辺に店を出したスーパーがオギノであることも、郊外に進出してきたショッピングモールがイオンで、その系列のドラッグストアがウェルシアであることもわかるのですが。倒産の決定的要因となった問屋がどこだったのかそれが分からないので知りたかったです。その問屋も最終的にハシゴを外されて倒産するハメになったようですが。

 

 

倒産したスーパーから教訓を得る実用性という意味では本書はあまり役に立たないかと思います。ただ、倒産した社長がどういう気持ちだったのか、そしてどうなるのかという実情を、エッセイ感覚で読むには良い著作だと思います。スーパーやまとが無くとも山梨県は回っていますが、やまとを知っている世代として、本書を大切に手元に残しておこうと思います。

なぜ倒産 平成倒産史編

 

紹介

 

経営の真実はミステリーを超える!
平成の30年間に倒れた中小・ベンチャー企業24社の失敗から、
普遍の法則を引き出す。

カメラの「ドイ」、ヘルメットの「昭栄(しょうえい)」、
ファブレス&研究開発型ベンチャーの先駆け「カンキョー」……。
あの有力企業が、なぜ -- こうするより、ほかなかったのか?
「会社を潰した経営者の告白」5編のほか、社長の苦渋の証言を多数収録。
「倒産というカード」の戦略的な切り方に踏み込む。

 

 

レビュー

 

「なぜ倒産 こうするよりほかなかなかったのか 23社の破綻に学ぶ失敗の法則」の続編です。

そちらは未読。

まぁケース事例集なので、そちら読んでなくても問題ないです。

 

倒産した企業にも様々な原因があれど、結局本書で教訓として述べられていることは結果論にすぎないように思えてしまう。

逆に成功した企業だってタイミングの問題だけで、やってることは同じなのに明暗分かれている場合も少なくない。

思いつくだけでも、楽天なら最初にネットモールを開いたから勝者になれただけ。

(だから後塵を拝した海外では勝ち組になれなかった)

メルカリも、先発企業でないのに勝ち上がれたのは広告を打つタイミングが上手かったから。

それを知っていると失敗の法則は一か八かの賭けで負けただけということにも映ります。

 

本文中ではバブル時の設備投資による負債に苦しめられた企業が多く紹介されてますが、右肩上がりの成長をしている状況では間違いなく規模拡大のために設備投資するのは正しい判断でした。

今の会社経営は利益重視だけど、それだってこの先どうなるか分かりません。

利益を出さないようにして、従業員還元を謳う企業経営がスタンダードになるかもしれない。

 

 

だからこそ、経営者でもない日経トップリーダーの記者が失敗を上から目線で語るのは高慢ちきに感じてしまいます。

逆に経営者が語る部分は読みごたえがあるのですが。

しっかり一社一社経営者の弁を読んでみたいです。

 

結論として本書は賭けに勝った企業は称賛し、賭けに負けた企業は非難するという日経の価値観がよく分かる一冊。

ビジネス本は好きだけど、日経のビジネス至上主義のこの部分だけは本当に好きになれない。

読む前は失敗談の方が面白いかと思ってたけど、第三者の視点で書かれているものに関しては成功談の方が面白い。

参考になりましたね。

 

 

なぜ倒産 平成倒産史編

なぜ倒産 平成倒産史編

  • 発売日: 2019/08/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)